ことわざや童謡にもその名前が登場するなど、日本人にとってとてもなじみのある魚「フナ」。あまりに身近な魚だけに、すでに何もかも知り尽くされた魚だろうと思っている方がきっと多いと思いますが、実はとても謎の多い魚として知られています。
今回はそんなフナについて、生態や特徴のほか、釣り方、調理方法についてご紹介したいと思います。
ぜひこの後の内容にも目をとおしていただき、フナに関するトリビアを覚えていってください。
フナってどんな魚?生態や特徴
分類:コイ目コイ科
フナとはコイ目コイ科コイ亜科フナ属に分類される魚の総称のことをいいます。日本に生息するフナには、ゲンゴロウブナ、ニゴロブナ、ギンブナ、キンブナ、オオキンブナ、ナガブナがおり、河川の中下流域や湖沼など水の流れが緩やかな場所に生息しています。
成魚の体長は種類にもよりますが15~30cmが一般的。外見はコイによく似ていますが、口元にヒゲが無いのですぐに見分けがつきます。体色は背中側が光沢のある灰色や緑褐色のものが多く、腹側は白色を呈しています。
産卵期は春~初夏(3~6月)とされており、この時期になると川岸や湖岸の浅場に集まり水草などに卵を産み付けます。フナの旬は産卵前の冬~春だとされており、脂がのったこの時期のフナは寒鮒(かんぶな)と呼ばれ高値で取引きされるものもいます。
生まれた子供はプランクトンを食べ成長しますが、大きくなるにつれ雑食に変わります(ゲンゴロウブナは生涯プランクトン食)。生後1~3歳になると成熟して産卵に参加。寿命は5~10年が一般的ですが、ゲンゴロウブナは10年以上生きるといわれています。
種の分類が決まっていない魚
日本に生息するフナは、形態的特徴の違いなどから6つの亜種(ゲンゴロウブナ、ニゴロブナ、ギンブナ、キンブナ、オオキンブナ、ナガブナ)に分類されてきました。ところが近年盛んにおこなわれている遺伝子レベルでの系統解析の結果、
- ゲンゴロウブナは他のフナたちとは明らかに違う独立した種
- 他のフナ(ニゴロブナ、ギンブナ、キンブナ、オオキンブナ、ナガブナ)は同一種内の亜種
であるとして、2種5亜種に分類するのが正しいだろうという学説が有力視されるようになりました。しかし、いまだ決着はついておらず、この説も今後変わってくる可能性があります。
ちなみに、ゲンゴロウブナ以外のフナ(ニゴロブナ、ギンブナ、キンブナ、オオキンブナ、ナガブナ)たちのことを俗に「マブナ」と呼びます。マブナという種類の魚がいるわけではありません。
ギンブナの子供はクローンが多い
ギンブナのなかには通常の有性生殖をする集団のほかに、雌性(しせい)生殖する集団がいることが古くから知られています。雌性生殖とは卵が受精するさいにオスの精子による刺激は必要だけれども、オスの遺伝情報は必要としない生殖システムのことです。
受精には精子による刺激だけが必要であるため、ギンブナ以外のフナやドジョウの精子でも受精は可能だといいます。雌性生殖によって受精した卵にはメスの遺伝情報しかないため、生まれた子供はすべて母親のクローンでメスになります。
ギンブナにはなぜ雌性生殖をする集団がいるのか、またその集団はなぜ関東地方に多いのかなど、いまだその謎は解き明かされていません。
フナの生息地は?日本では釣れる?
フナは日本を含むユーラシア大陸全域に広く分布しています。ユーラシア大陸に生息するギベリオブナ、中国に生息する中国普通鮒(金魚の祖先とされている)、そして日本に生息するフナ、これらフナたちの共通の祖先はユーラシア大陸で発生したとされています。
日本では北海道から沖縄まで全国にフナは生息していますが、種類によって生息する地域が異なっています。
- ゲンゴロウブナとニゴロブナ:琵琶湖周辺に分布(琵琶湖固有種で食用として人気)
- ギンブナ:日本全国に分布
- キンブナ:関東、東北、北海道に広く分布。日本のフナのなかで最も小型。
- オオキンブナ:西日本に広く分布
- ナガブナ:本州の日本海側と諏訪湖周辺に分布
国内で天然のフナは、上図の色のついた地域で刺網や底びき網で漁獲されています。2021年の調査では、1位:岡山県(児島湖)、2位:滋賀県(琵琶湖)、3位:新潟県(信濃川)となり、これだけで全体の漁獲高の8割を占めました(農林水産省のデータ)。
また、一般のレジャーとしての釣りでは、日本各地の河川や湖沼、用水路、釣り堀などで一年を通してフナ釣りは楽しまれています。
フナ釣りの方法や仕掛け方法
「釣りはフナに始まりフナに終わる」ということわざがあります。子供のころフナを相手に釣りの楽しさをおぼえ、その後、渓流や海などさまざまな釣りを経験した人でも、フナ釣りの面白さ、奥深さにひかれてまたフナに戻ってきてしまうという感慨深いお話です。
今でこそ釣りの入門はフナではなく、ブラックバスに変わりつつありますが、中高年以上のベテランの釣り人たちの間では、依然としてフナ釣りには大きな人気があります。
ここでは、そんな中高年に人気のフナ釣りの方法を2つご紹介します。
〇フナ釣り(シモリウキ仕掛け)
初心者でも簡単にフナ釣りが楽しめるのが、ノベ竿を使ったシモリウキ仕掛けです。狙う魚は水田の脇などを流れる用水路(ホソという)にひそんでいるフナたち。釣具店のスタッフさんに聞けば近くにあるおすすめの釣り場を教えてくれるはずです。
こういった場所にはゲンゴロウブナ以外のフナ(雑食性のギンブナやキンブナなど)が多く生息しているので、エサにはグルテン餌のほかに、アカムシやキジ(ミミズ)などの虫エサも使います。
シモリウキ仕掛けではポイントにエサを投入した際に、数珠のように連なった丸ウキがゆっくりと水中に沈んでいくようにオモリを調整してやることが重要です。魚がエサをくわえると丸ウキが不自然な動きをするので、すかさずアワセるのが釣果を伸ばすコツです。
注意)用水路周辺に車を停めると農作業の邪魔になります。釣行前に釣具店などで駐車場の位置を確認しておくといいでしょう。
フナ釣り用の基本タックル(シモリウキ仕掛け)
- 釣り竿:2m前後のノベ竿(清流竿、ヘラ竿など)
- ミチ糸:ナイロンライン1号
- シモリウキ:0~2号を5個前後
- ハリス:0.5~0.6号
- オモリ:板オモリ(適宜)
- ハリ:袖針4~6号
- エサ:グルテン餌、アカムシ、キジ(ミミズ)など
〇ヘラブナ釣り(河川、釣り堀)
フナ釣りのなかでもっとも人気があるのがこのヘラブナ(ゲンゴロウブナの改良種)釣りです。ヘラブナはエサの食べ方がとても繊細な魚です。このためヘラブナがエサを口にしてもウキにはわずかな変化しかあらわれません。
このためアタリをとるのがとても難しく、初心者では簡単には太刀打ちできません。使用するヘラウキの種類(長さ・太さ・材質の違い)やエサの違いなどによって、アタリの出方は大きく変わってきます。
ウキに少しでも大きなアタリが出るようにと、釣り人たちは仕掛けやエサに独自の工夫を凝らしています。このいろいろと試行錯誤する部分がヘラブナ釣りの一番の醍醐味であり、他人よりも1匹でも多くのヘラブナを釣ってやろうとみんなが熱くなります。
ヘラブナ釣り用の基本タックル(河川、釣り堀用)
- 釣り竿:3m前後のヘラ竿
- ミチ糸:ナイロンライン1号
- ウキ:ヘラウキ
- ハリス:0.5~0.6号
- オモリ:板オモリ(適宜)
- ハリ:ヘラブナ用4~6号
- エサ:ヘラブナ用のグルテン餌
フナの味や調理法
フナは海から遠い内陸部でも比較的容易に手にはいる魚だったことから、昔から重要なタンパク源として日本各地で食べられてきました。フナを使った郷土料理も多く、今でも地元の人たちに愛されています。
ここでは、そんなフナを使った郷土料理のなかから、地元以外の方でも簡単に作れる料理を3つご紹介します。
12~2月の寒い時期にとれたフナは「寒鮒」とよばれ、泥臭さも少なく脂がのってたいへん美味しくなります。なかには卵をもったものもいるので、もし手に入った場合はぜひ調理してみてください。
注意)フナには寄生虫の一種である「顎口虫(がっこうちゅう)」などが寄生することがあります。人が寄生されると重篤な症状に見舞われることもあります。近所の川や野池などで釣った野生のフナを(知識のない人が)刺身などの生食で食べるのはやめましょう。
ふな飯(岡山の郷土料理)
フナの漁獲高日本一を誇る岡山県の郷土料理です。冬に漁獲されるギンブナをまな板の上でトントンと包丁でたたいて調理することから、「とんとこ飯」とも呼ばれ地元の人に昔から愛されています。
ミンチ状にしたフナとたくさんの野菜が入ったダシ汁を、熱いご飯にたっぷりかけて召し上がってください。
ふな飯の作り方
材料(3~4人分)
- ふなミンチ 200g ※通信販売でお取り寄せも可能
- ニンジン 1/2本
- ごぼう 1本
- こんにゃく 1/4枚
- 油あげ 1枚
- 里芋 4個
- 小口ネギ 適量
- サラダ油 小さじ1
- ダシ汁 3カップ
- しょうゆ 50cc
- みりん 小さじ1
- 酒 大さじ1
- 塩 適量
①ふなのウロコ、内臓、頭をとったら、包丁で3枚におろし、腹骨と中骨を取りのぞく。
②包丁で皮をひいたら、身を包丁でたたいてミンチ状にする。
③ニンジン、こんにゃく、油あげは短冊切り、ごぼうはささがきにして水でアクを抜く。里芋は皮をむいて1cm厚の輪切りにする。
④フライパンにサラダ油をいれて熱したら、②のふなミンチを入れてほぐしながら炒める。ふなミンチが白っぽくなったら、③を入れてさらに炒める。
⑤鍋にダシ汁を入れて火にかけたら、④を入れて煮込む(このときアク取りも忘れずに)。
⑥野菜に火が通ったら、しょうゆ、みりん、酒、塩を入れて味を調える。具にしっかり味がなじむまで煮込む。
⑦どんぶりにご飯を盛ったら、⑥をたっぷりかけて小口ネギを散らしたら出来上がり。
小ブナの甘露煮(長野の郷土料理)
長野県の佐久市周辺で昔から食べられている郷土料理。この地域では春に親ブナを水田に放ち卵を産ませ、生まれた子供を稲と一緒に育てる「水田養鮒」がおこなわれています。秋に5cmほどに育った小ブナは生きたまま袋詰めされてスーパーなどで販売されます。
小ブナの甘露煮の作り方
材料
- フナ 5cm前後の小型を1kg
- しょうゆ 180g
- 酒 250g
- 砂糖(ざらめ) 300g
①フナは調理前に水を何度も替えて泥を吐かせておく。
②①のフナを生きたまま鍋に入れ、しょうゆ・砂糖を入れたら素早く蓋をして30分ほど寝かせる。
③砂糖(ざらめ)を入れたら強火にかけ、煮立ったらアクをとる。
④火を弱火にしたら、落しぶたをしてじっくりと煮る(煮崩れしてしまうので途中でかき混ぜたりはしないこと)。
⑤煮汁が少なくなったら鍋を傾けて、煮汁をスプーンですくい取りフナに回しかける。
⑥煮汁が無くなったら火を止めてよく冷まし、お皿に盛り付けたらできあがり。
ふな味噌(愛知の郷土料理)
濃尾平野を流れる木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)の下流地域で昔から愛されている郷土料理。木曽三川でとれたフナを地元の調味料「豆味噌(赤味噌)」のタレで甘辛く煮込んだ料理です。弱火で長時間じっくり煮込むため骨まで丸ごと食べられます。
熱々のご飯にのせて、または酒のさかなとしてお召し上がりください。
ふな味噌の作り方
材料(4人分)
- フナ 中サイズ(20cm前後)4匹
- 大豆(乾燥) 150g
- 豆味噌(赤味噌) 180g
- みりん 大さじ1.5
- 砂糖 70g
- しょうが 1かけ
①大豆を一晩水につけてもどしておく。
②包丁でフナのウロコ、エラ、内臓を取りのぞいたらよく水洗いする(頭は切らずにのこしておく)。
③鍋に①の大豆を入れたら、その上に②のフナをのせ、水をくわえて煮る。ふき上がってきたら水をすべて捨てる。
④③に水を入れて沸騰したら、豆味噌、みりん、砂糖を入れ、豆味噌が溶けてきたらしょうがの千切りを入れる。
⑤焦げ付かないように弱火で5時間ほど煮込んだら出来上がり。
まとめ
今回は日本人に昔から親しまれているフナについて、生態や特徴のほか、釣り方や調理法などについてご紹介させていただきました。
フナは種の分類がいまだ決まっていない魚、ギンブナにはクローンがいる、マブナは固有名称ではなかったなど、意外と知らないことも多かったのではないでしょうか。
もしみなさんの周りにこれらの情報について知らない方やお子さんがいましたら、ぜひフナのトリビアとして教えてあげてくださいね。
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