みなさんはアオリイカというイカをご存じでしょうか?
そのあまりのおいしさから「イカの王様」とよばれるアオリイカは、漁獲量が少なく常に高値で取引されています。このため近所のスーパーではなかなか見かけず、産地の旅館や高級料亭、おすし屋さんでしか食べることができませんでした。
ところが2000年代に入り、新たな釣りのジャンル「エギング」の釣りが登場すると、それまで釣るのがとても難しかったアオリイカが、わりと簡単に釣れるようになり、一般の人にも手の届きやすい存在になってきたのです。
今ではアオリイカが食べたくて、釣りをはじめたという人がいるほど人気のターゲットとなっています。
今回はそんな食べておいしいアオリイカについて、生態や特徴のほか、釣り方、調理方法についてご紹介したいと思います。
アオリイカってどんな魚?生態や特徴
分類:ツツイカ目ジンドウイカ科
アオリイカはツツイカ目ジンドウイカ科のイカで、成体は大きいもので胴長(外套背長)40cm以上、体重3kgを超えます。体形は胴体だけをみると砲弾型ですが、胴の左右にある大きなひれ(外套膜という)も含めると卵のような楕円形をしています。
この見た目の特徴から、海外ではアオリイカのことをOVAL SQUID(卵型をしたイカ)とよぶ地域もあるほどです。
産卵期は4~9月といわれており、この時期になると水深の浅い沿岸部の藻場を目指して大型のアオリイカたちが集まってきます。この頃がアオリイカの旬で、俗に「春アオリ」とよばれています。
海藻などに産み付けられた卵はおよそ1カ月でふ化し、同じ年の9月頃には手のひら大(ぼたもち、コロッケサイズという)にまで成長して秋の旬をむかえます。彼らは「秋アオリ」とよばれ、好奇心が旺盛で釣りやすいことから人気のターゲットとなっています。
アオリイカは成長がとても速いイカとして知られており、生まれた直後は胴長5mm程度にもかかわらず、わずか1年で40cm以上になる個体もいるほど。寿命は1年といわれており、産卵のあと短い一生を終えます。
名前の由来は馬具の泥除け
標準和名であるアオリイカは、漢字では「障泥烏賊」と書きます。アオリイカの大きな特徴のひとつであるひれの形が、乗馬の際に鞍の下に敷く障泥(あおり)とよばれる泥除けに似ていることからその名がついたとされています。
また、アオリイカには地方名が多く存在しています。ひれの形が芭蕉の葉に似ていることから「バショウイカ」、藻場に多く生息するイカであることから「モイカ」、水のような透明感のある体から「ミズイカ」などとよぶ地域もあります。
日本には3種のアオリイカが分布
日本に生息するアオリイカはこれまで1種類と考えられていましたが、近年の研究により遺伝的に異なる3タイプのアオリイカ、「シロイカ型」、「アカイカ型」、「クアイカ型」がいることが分かってきました。
日本に生息するアオリイカの大部分はシロイカ型で、アカイカ型は沖縄から九州の五島列島、徳島県、伊豆諸島、小笠原諸島に生息し、シロイカ型より大きくなります。体のサイズが特に大きなものはレッドモンスターとよばれたりします。
クアイカ型は琉球諸島の一部で確認されており、体重は100g前後と小型のアオリイカです。
アオリイカの生息地は?日本では釣れる?
アオリイカは海水温が15~30度ほどの暖かい海域にすむイカです。日本周辺では北海道南部から南西諸島までの沿岸部に広く分布し、とくに太平洋側では千葉県以南、日本海側では福井県以南の暖かい海域に多くが生息しています。
国内でアオリイカは、沖縄諸島、九州、四国、中国地方、丹後半島、能登半島、紀伊半島、伊豆半島、三浦半島、房総半島などの沿岸で釣りや定置網などで多く漁獲されています。
一般のレジャーとしての釣りでは、北海道以南の日本各地の沿岸(堤防、磯、サーフなど)でアオリイカ釣りは楽しまれており、とくに千葉県より南の暖かい地域ではほぼ一年を通して釣りが楽しめます。
冬季(1~4月)に海水温が大きく低下する北陸および北日本地域では、アオリイカが寒さから逃れるために南下したり(避寒回遊という)、あるいは死んでしまうためとても釣りにくくなります。
アオリイカ釣りの方法や仕掛け方法
アオリイカ釣りには、一般的な釣りとは大きく異なる特徴があります。釣り針は魚の口に掛けるのがある意味常識ですが、アオリイカ用の釣り針は、アオリイカの体に引っ掛けることを目的に取り付けられています。
そんなアオリイカに特有の釣り方を2つご紹介します。
ウキ釣り
アオリイカがもっとも高い確率で釣れるのがこのウキ釣りです。生き餌(小アジなど)を泳がせてアオリイカを釣ることから、別名「泳がせ釣り」ともいいます。
仕掛けには、生き餌を付けるための針と、アオリイカを引っ掛けるための別の針(カットウ針)が少し離れて配置されています。
アオリイカが生き餌に抱きつくと、ウキには大きな変化があらわれます。これを合図に大きくアワセをいれると、生き餌の近くに取り付けられたカットウ針がアオリイカの足や胴体に刺さって釣れるという仕掛けです。
ウキ釣り用の基本タックル(堤防&磯用)
- 釣り竿:4~5mの万能リール竿(1.5~3号)
- リール:スピニングリール(2500~3000番)
- ライン:ナイロンライン 2~3号 150m以上
- 仕掛け:市販のアオリイカ用ウキ釣りセット仕掛けがおすすめ(1,500~2,000円)
- エサ:生き餌(小アジ、小サバ、イワシなど。現地の堤防でサビキ釣りで調達)。もし生き餌が用意できない場合はスーパーの冷凍アジでもよい。
エギング
アオリイカといったら、この釣りといえるほど人気なのが「エギング」です。
この釣りでは、アオリイカの好物の小魚やエビに似せてつくられた「エギ」とよばれる疑似餌(ルアー)を使います。エギはリールを巻いてただ引いただけではまっすぐにしか泳ぎません。ロッドによるシャクリの動作などを加えてはじめてエギに生命感が宿ります。
偶然に釣れたのではなく、テクニックを駆使して釣ったという大きな手ごたえが感じられるのがエギングの一番の魅力だといえます。
エギング用の基本タックル(堤防&磯用)
- 釣り竿:8ft台のスピニングリール竿(2.5~3.5号のエギが扱えるもの)
- リール:スピニングリール(2500~3000番)
- ライン:PEライン 0.6~0.8号 150m以上
- リーダー:フロロカーボンライン 2~3号 1m
- エギ:2.5~3.5号 小型のイカが多い秋などは2.5~3.0号。大型が多い春は3.0~3.5号
アオリイカの味や調理法
アオリイカは日本でとれるイカのなかで最もおいしく甘いイカだといわれています。その理由はおいしさの素であるアミノ酸が多く含まれること。さらに甘味をもつ遊離アミノ酸(グリシン、アラニン、プロリン)がイカの仲間では最大量含まれているからです。
アオリイカをおいしく食べるには、釣りあげたらすぐに活け〆することがだいじです。これを怠るとアオリイカの魅力である透明感がなくなり身が白くなってしまいます。
家に持ち帰ったら鮮度が落ちないようにすぐに内臓は取り出してください。その後、冷蔵庫で一晩寝かせると甘さが増してアオリイカがよりいっそうおいしくなります。
アオリイカの刺身
アオリイカの甘味がもっともよく感じられる食べ方が、このお刺身です。身の表面にある薄皮をきちんと取りのぞくことが美味しくいただくコツです。
〇アオリイカのお刺身の作り方
- アオリイカの背中をまな板側にした状態で、胴体の腹側だけに縦に包丁を入れて腹をひらく。
- 胴体から頭(眼、口、足のある側)を手で引き抜く。このとき内臓にある墨袋には傷をつけないように注意する。口、足、墨袋などは食べられるので捨てずにとっておく。
- 胴体に残った内臓をとり、きれいに水洗いする。
- 胴体内の背中側に透明の甲羅があるので取り除く。
- 胴体から外套膜(エンペラ)を手で引き剥がす。ここまでの作業が終わると、白くてきれいな胴体のひらきができあがります。
- 胴体の両面にある薄皮をキッチンペーパーを使ってきれいに剥がす。皮の表面に包丁で切れ目を入れると剝がしやすくなります。
- 胴体を適当な大きさの柵に切り分けたら、これをフリーザーバッグに入れて冷凍庫で凍らせる(-20度以下で24時間以上)。※凍らせる理由は寄生虫のアニサキスを死滅させるため
- 冷凍庫から取り出して解凍する。
- 包丁で短冊状に切り分けてお皿に盛り付けたらできあがり。表面に隠し包丁を入れるとより美味しくいただけます。
アオリイカの天ぷら
甘みが強いアオリイカは、天ぷらにしても美味しくいただけます。高温の油をつかって短時間でカラッと揚げるのが美味しくいただくコツです。
〇アオリイカの天ぷらの作り方
上で紹介したお刺身の作り方の手順①~⑥までは一緒です。以下はアオリイカの胴体のひらきがある状態からの作り方です。
- キッチンペーパーで水分を取ったあと、胴体の両面におよそ1cm幅の隠し包丁を格子状にいれる。
- 胴体を食べやすい大きさ(幅2~3cmの短冊状)に切り分ける。
- アオリイカの切り身をバットに入れたら、かたくり粉を適量まぶす。
- ボウルに、天ぷら粉50g、水80mlを入れたらよくかき混ぜる(これが衣になる)。
- フライパンにサラダ油を入れて180度に熱する。
- アオリイカの切り身を④の衣につけたら、油にいれる。衣がからりとするまで1分ほど揚げる。
- 油をきって、お皿に盛り付けたらできあがり。塩や麵つゆでいただきましょう。
イカスミのパスタ
捨てる部分がほとんどないアオリイカは、内臓にある墨袋も美味しくいただけます。磯のかおりが豊かで濃厚な味わいのイカスミのパスタをぜひ食べてみてください。
〇イカスミのパスタの作り方
上で紹介したお刺身の作り方の手順①~⑥までは一緒です。以下はアオリイカの胴体のひらきがある状態からの作り方です。
- あらかじめ茹でたパスタを用意しておく。
- フライパンにオリーブオイルとニンニク(みじん切り)を入れて火にかける。
- ニンニクに色がついたら、タマネギ(スライス)を入れて中火で軽く炒める。
- タマネギがしんなりしてきたら、食べやすい大きさに切ったイカを入れて炒める。
- イカに火が通ったら、フライパンに墨袋を入れてやさしくつぶす。
- イカスミが具材にいき渡るように炒める。
- 白ワインを適量入れてアルコールを飛ばす。
- 塩とコショウを入れて味をととのえる。
- ①の茹でたパスタを入れたら全体が黒くなるまで軽く混ぜ合わせる。
- お皿に盛り付けたらできあがり。彩のパセリなどを添えると見た目もよくなります。
まとめ
今回は海釣りの人気ターゲットであるアオリイカについて、生態や特徴のほか、釣り方や調理法などについて紹介させていただきました。アオリイカはとてもおいしい魚だと聞いて、さっそく釣りに出かけたいと思った人もいるのではないでしょうか。
ただ、その際にひとつだけ覚えておいてほしいことがあります。
近年、各地の釣り場ではアオリイカが釣れなくなったという声が多く聞かれます。温暖化による産卵場の減少や、釣りによる漁獲圧(釣りすぎ)が原因だと指摘する人もいますが、本当の理由はまだよく分かっていません。
ですが、釣りすぎはやはりよくないと、アオリイカを必要以上に持ち帰るのはやめようという機運が各地で高まりつつあります。これから先もずっとアオリイカ釣りが楽しめるように、こういった取り組みにはみんなで協力していきたいですね。
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